| 技法 | アクリル、キャンバス |
| サイン | 裏面にサイン、タイトル、年代、シール「OTA FINE ARTS」、「Victoria Miro Gallery」 |
| 額 | 額装 |
| サイズ | 130.0×162.0 cm |
| 制作年 | 2014 |
| 鑑定書 | 草間彌生作品登録カード付 |
| 来歴 | ヴィクトリア・ミロ・ギャラリー、ロンドン |
「水玉は太陽のかたちを持ち、世界と生命力の象徴です。同時に月のかたちでもあり、安らぎと静寂をたたえています。円形で、やわらかく、色彩に満ち、無知で、捉えがたい。水玉はひとつの運動であり、無限へと通じる道なのです。」
—— 草間彌生
草間彌生の芸術宇宙において、水玉は永遠の言語である。《夜の星辰》において、ひとつひとつの円点は独立した宇宙であり、無数の円点はさらに大きな無限へと収斂していく。草間はかつて「宇宙には無数の水玉があります。星も水玉、私たちも水玉なのです」と語った。本作において、彼女は自らの精神を一筆ごとに投影し、キャンバスを果てしなき空間へと変容させている。
草間の制作は、終わることのない修行にも似ている。執拗で繊細な筆致により、単一の行為を倦むことなく反復し、色彩を肌理へと変え、水玉を網のように編み上げていく。《夜の星辰》は、彼女の象徴的な単色の地に反復する水玉とは趣を異にし、変化に富む色調によって新たな表現を切り開いている。深いサファイアブルーと神秘的な紫の諧調が夜の帳のように広がり、幾重にも重なるグラデーションが宇宙の無限性を想起させる。
その冷ややかな基底の上に、宝石のような赤い星点と白い波紋が呼吸するかのように躍動し、魅惑的な視覚のテクスチュアを織りなす。優美な輪郭をもつ弧状の花弁形モティーフは、互いに寄り添いながら層を成し、生命の原初的な細胞を思わせると同時に、宇宙の根源的な構造を暗示する。それらは再生を続ける物質のように、画面の境界を越えて拡張しようとする生命力を帯び、鑑賞者を没入的な宇宙的瞑想へと誘う。
草間の作品に激しい情動はない。あるのは反復と瞑想、そして静謐である。その反復のなかで自我は溶解し、画面は魅惑的な二重性を帯びる。すなわち、極めてミニマルでありながら豊穣であり、静止しているかに見えながら絶えず流動しているという両義性である。鑑賞者は凝視のうちに、時間と空間の境界を忘却する。
本作を前に私たちが目にするのは、単なる夜空の星々ではない。それは草間彌生が生涯をかけて探究してきた問いへのひとつの答えである。無限の反復のなかで個は宇宙へと融解し、生命の本質は終わりなき連関と流動のうちに顕現する。《夜の星辰》はその理念の結晶であり、一枚の絵画であると同時に、無限なる宇宙へと通じる精神の通路なのである。