| 技法 | 油彩、キャンバス |
| サイン | 右下にサイン 裏面木枠にシール「ALEX MAGUY」、「Galerie Kleinmann」 |
| 額 | 額装 |
| サイズ | 73.0×54.0 cm |
| 制作年 | cir. 1930 |
| 鑑定書 | Marc OTTAVI氏の鑑定書付 |
| 文献 | 現在準備中のカタログレゾネ「Catalogue raisonné de l'Œuvre de Moïse Kisling, Volume IV et Additifs aux Tomes I, II et III」に掲載予定 |
| 来歴 | Galerie de l'Eysée (Alex Maguy), Paris |
1930年頃に制作された本作は、エコール・ド・パリの寵児であるモイーズ・キスリングの真骨頂を示す優品である。戦前における幾何学的造形探求と、その後に展開される柔らかな人物表現との接点に位置づけられる重要な作例といえる。
キスリングは、パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックとの交流を通じてキュビスムの影響を受け、対象を円錐や矩形といった図形へ還元する構築的手法を試みた。本作にもその構造意識は明確に認められる。冷ややかな青の背景、人物を安定させる壁の物質的テクスチャー、そして量感を強調する画面構成は、戦前の実験的姿勢を色濃く反映している。
一方で、画面中央に配された女性像の肌は、透けるように滑らかで、磁器のような純度と内側から滲む官能性を同時に宿す。青の背景に対し、赤い唇と腰布の赤は強い生命力と緊張感を生み、画面に明確な焦点を与えている。切り揃えられた前髪が落とす影は大きな瞳に憂いと神秘性を添え、静かな存在感を強調する。
しかし本作の真価はその静謐さの奥、キスリングが一貫して描き続けた、どこか陰を帯びた表情にある。その背後には、第二次世界大戦へと向かう不穏な時代の空気が静かに内包されている。国籍や思想といった枠組みを超え、個としての人間の存在を提示する視線は、時代を越えて現代の鑑賞者にも深い共感と生の実感をもたらす。